今日の『松下幸之助 一日一話』より
どんな商売もそうでしょうが、自分の店が発展、繁栄していくには、そのお店の属している業界全体が常に健全で、世間の人びとから信用されていることが非常に大事だと思います。
もしそうではなく、業界の中に不健全な店が多ければ、「あの業界はだめだ、信用できない」ということになって、その業界に属する個々の店も、同じような評価を世間から受け、商売は成り立っていきにくくなるでしょう。
ですから、お互い商売を進めていく上で、自分の店の繁栄をはかることはもとより大事ですが、それと同時に、他の店ともうまく協調して、業界全体の共通の信用を高めることを配慮することが、きわめて大事だと思うのです。
非常に重要なことを言っていると思います。
業界全体で繁栄を目指す、という発想はなかなか出てこないものではないでしょうか。たとえば、体力の弱いスタートアップ企業なら特にですが、自社の開発した技術を特許で守って、よそから容易に真似されないように、利益を横取りされないように、そういう風に守りの発想を持つことは、自然なことだと思います。
私が人と事業について話をしたときも、冗談半分ではあるのですがよく「ビジネスモデル特許を取ったらどうだ」というような話が出てきました。私も「取れるものなら取ってみたい」と思わないでもないのですが、でもやっぱりこれは戒めないといけない考えだと思っています。
そういう話になると思い出すのが博多名物「明太子」の元祖である、ふくやを創業した川原俊夫のことです。川原さんは何年もかけて独自に工夫を重ねてきた明太子の製法を、隠すことなく、積極的に同業者に教えました。特許も商標権もとりませんでした。
その結果、今では福岡に百社を超える同業者が育ち、それぞれが独自の味の特徴を出しあっています。お客さんは自分の好みの味を選ぶことができるようになりました。そうやって業界全体が成長していった結果として、今日の、福岡、博多といえば明太子、という地域のブランドが確立されたというわけです。
最初、川原俊夫が明太子の製法を特許で守っていたり、明太子という商標を他社に使わせない姿勢をとっていたなら、業界としての成長はなく、明太子が全国に知られることもなく、市場そのものが小さいままで、当然、ふくやも今ほど儲からなかったでしょう。
私自身も、今まさに同じ気持ちで事に当たるべきだと思うのですよ。
