原題は “The Third World War” です。第三次世界大戦。それに二見書房がなんでこんな邦題をつけたのか理解できません。北朝鮮に限った話ではないのに。そんなスケールの小さな話じゃない。日本ではこんなタイトルの方が売れると踏んだのか。もったいない。
たまたま図書館で手に取っていなかったら読む機会もなかったろう。ハンフリー・ホークスリーという名前は知りませんでした。元 BBC のアジア特派員だそうです。外交や軍事の描写がやたら緻密でリアルなのもそのためか。
原著が書かれた時期は2003年から2004年ごろだと思われます。
ストーリーの時代設定は、ブッシュやプーチンといった名前が元職として出てくるので、だいたい2010年前後になるでしょうか。
インドの国会議事堂が大規模なテロにあうところから話ははじまります。ほぼ同時に、パキスタンの親米派大統領が暗殺され、フィリピン南部からブルネイ、マレーシアにかけて一斉武装蜂起が起こり一時イスラム過激派の手に落ちます。
同じ頃、東京の横田基地に北朝鮮から飛来したミサイルが着弾、北朝鮮は事故と主張し、弾頭は装着されていなかったものの、米軍の兵士と家族に58人の死者が出る事態となります。
アメリカ、中国、インド、ロシア、日本、英国等、関係する大国の首脳が事態の収拾に動き出しますが、互いの主導権争いや自国における立場が絡み話がまとまらず、そうこうしているうちにパキスタンでは軍部が政権を奪い、北朝鮮ではより危険な新指導者が実権を掌握、遺伝子操作した天然痘による強力な生物兵器の開発を秘密裏に進めます。
反撃を自制するインドに対してイスラム勢力の攻撃はエスカレート、インドとパキスタンの間で緊張が高まり、インドはパキスタンを支援してきたアメリカを非難、北朝鮮への先制攻撃を計画するアメリカに対して中国がまったをかけ、日本はこれを機に核武装計画を進め、…。
後半の悪夢のような展開に血の気が引く思いがしました。しかもこれは、それほど荒唐無稽な話ではなく、現代世界が実際に直面している状況が書かれているわけです。どういうことか。つまり、
- インドとパキスタンは互いに核兵器と長距離ミサイルを持って対峙している。
- パキスタンの親米政権はいつイスラム原理主義勢力に倒されてもおかしくない状況にある。
- 北朝鮮も長距離ミサイルを持っていて、核兵器も持っていると主張している。
- パキスタンも北朝鮮も中国が支援しているのでアメリカも容易に手を出せない。
これが今の世界の現実ですが、多くの人はそれを知っていてなお、第三次世界大戦など起こりそうもないと、そんなのはあっても相当先のことだと、そう考えているのかもしれません。
しかしそれが、今の現実のすぐ延長上に起こるいくつかの想定可能な出来事の連鎖から、案外あっけなく、しかし最後には大国間の大規模な軍事衝突、核による都市攻撃の応酬、そういった最悪の事態につながってしまうかもしれない。この本はその悪夢のシナリオをリアルに描ききってみせます。
エピローグからの引用:
なんて愚かだったのだろう、わたしたちは。核兵器が抑止力でなくなり、単なる戦争のための兵器になるのは、時間の問題にすぎなかったのに。
愚を避けるために一体どうしたらいいのだろう、わたしたちは。


